研究不正大国ニッボン
研究不正とは
他国の状況
「研究公正システム」とは研究不正を防止するためのシステムであり、一般的に研究者への教育等の研究公正の推進と特定研究不正事案の調査に分かれる。これらをどの機関(国家、省庁、研究機関)が実施するかは、国により異なっている。米国のように、法令で規程し、国の第三者機関が研究機関の調査に大きく関与する中央集権的な例や、欧州のように「学問の自由」を重視し、各研究機関が独自の規程で調査を行う例等がある。日本はその中間で、文科省が省令(ガイドライン)を規程し、調査自体は研究機関が行い、各省省庁は研究機関に対し、調査の支援や違反の措置を行う。どのシステムが絶対的に優れているという訳ではなく、国の技術レベル、研究資金、研究者数等に応じ、選択すべきである。
国の委託研究における研究不正について
一般的な学術論文は、第三者の査読により、多くの誤り(故意、過失)が訂正される。査読を通ったとしても論文は公開され、一般研究者の指摘により訂正される。
一方、委託研究の資金配分機関は、内容が公開されないのを良いことに、査読は殆どなし、不正に気づいても指摘せず、長期的な事業判断の中で外せば良いと考える。
今回の事案は、守秘義務にかかわらず、研究内容を公開したことにより、委託研究の悪しき実情を露呈した珍しい例である。
研究不正に対する各機関の対応も酷い。公正であるべき、調査委員会やコンプライアンス室が、言われて恥ずかしくなる様な嘘を平気でつく。自分の身内の不祥事を公開されたて、良いことはない。公正な裁判官ではなく、被疑者の嘘つき弁護士となる。
今回、複数の国立大学、複数の省庁、国立研究開発法人、日本学術会議と議論したが、研究不正に真面目に取り組む者は一人もいなかった。(みなし)国家公務員の危機管理意識の低さによる、日本の平均的な対応だと思う。
研究不正に関する法令とガイドライン
科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律
第六節 その他の研究開発等の推進のための基盤の強化
(研究開発等の公正性の確保等)
第二十四条の二 研究者等は、研究開発等の公正性の確保及び研究開発等に係る資金の適正な使用について第一義的責任を有するものであって、研究開発等に係る倫理に関し知識と理解を深めること等を通じて、研究開発等の公正かつ適正な実施に努めるものとする。
2 研究開発機関は、その研究者等が研究開発等に係る倫理に関する知識と理解を深めるために必要な取組を実施するとともに、研究開発等に係る不正行為(資金の不正な使用を含む。次項において同じ。)について客観的な根拠に基づき適切に対処するよう努めるものとする。
3 国は、研究開発等に係る不正行為が科学技術に対する国民の信頼を損なうとともに、科学技術の水準の向上を妨げることに鑑み、その防止のための体制の強化その他の研究開発等に係る不正行為の防止に必要な施策を講ずるものとする。
文科省のガイドライン
研究活動における以下の行為。
- 故意:捏造、改ざん、盗用、二重投稿等
- 過失:研究者としてわきまえるべき基本的な注意義務を著しく怠った行為
特定不正行為及び管理責任に対する措置
第4節 特定不正行為及び管理責任に対する措置
2 組織としての管理責任に対する研究機関への措置
(2)迅速な調査の確保
競争的資金の配分機関は、当該競争的資金の配分により行われた研究活動において特定不正行為の疑いがある事案が発覚したにもかかわらず、正当な理由なく研究機関による調査が遅れた場合は、当該競争的資金における翌年度以降の1か年度の間接経費措置額を一定割合削減する。間接経費措置額の削減割合については、上限を間接経費措置額の10%とし、配分機関が個別に定めるものとする。
第5節 文部科学省による調査と支援
1 研究活動における不正行為への継続的な対応
文部科学省は、有識者による検討の場を設け、本ガイドラインの実施等に関してフォローアップするとともに、必要に応じて本ガイドラインの見直し等を行う。
4 研究機関における調査体制への支援特定不正行為の疑いが生じた場合には、まず研究機関において調査を行うこ とになるが、当該研究機関だけでは十分な対応が困難な場合も考えられる。こ のため、文部科学省は、研究機関において十分な調査を行える体制にないと判 断する場合は、研究機関に対し適時助言を行うとともに、日本学術会議や配分 機関と連携し、専門家の選定・派遣を行うなど調査を適切かつ円滑に進めるた めに必要な支援を行う。
九州大学の対応
研究倫理ガイド
研究不正行為への対応
虚偽公文書作成による研究不正の隠蔽
日本は研究不正大国
Researcher at the center of an epic fraud remains an enigma to those who exposed him
撤回論文上位を日本人が寡占
科学後退国 ニッポン
今年の「ノーベル賞ゼロ」は決して偶然でない ── 科学への誤った投資が研究現場を殺している撤回論文上位を日本人が寡占
サイエンス誌があぶり出す「医学研究不正大国」ニッポン
撤回論文数上位10人の半数は日本人
記事は、論文監視サイト「リトラクションウォッチ」が作成した、撤回論文数の研究者別ランキングを引用し、研究論文の5%しか作成していない日本人が、撤回論文が多い研究者上位10人のうち半分の5人を占めることを指摘する。
「研究不正大国」からの脱却を
具体的には,研究不正や誤った実験などによる撤回論文数の多い研究者ワースト10に2人,ワースト30に5人もの日本人が入っています。国別の論文撤回率においても,日本は5位です。そして,2014年に発生したSTAP細胞事件とディオバン事件という二つの大きな研究不正により,日本は研究不正の「量」だけでなく「質」においても世界から注目を集める国になってしまいました。
日本の状況
STAP細胞事件が覆い隠した科学技術立国ニッポンの「ヤバい現実」
何も学ばなかった科学界
しかし、最近日本人研究者や日本人医師が、留学先で行った行為を研究不正とみなされ、処分される事例が相次いでいる。日本では当たり前に行っていた行為が研究不正と認定されてしまうのだ。
研究機関も研究者も科学界も、そして行政も、STAP細胞事件から何も学んでいないのだ。
「研究公正」を科学技術政策の中心に
正直なところ、大学や研究機関も、そして研究者の多くも、研究不正対策を「負のコスト」と考え、研究不正対策に時間も人員も金も割きたくないと考えているだろう。 その意識は、大学や研究機関のなかにも、研究不正を取り扱う専門の部署がないことにも透けて見える。担当者は他の仕事と兼任しており、人事異動でいつ担当者が変わるか分からない。
もちろん日本も何もしていないわけではなく、文部科学省(文科省)の科学技術・学術政策局人材政策課には研究公正推進室がある。研究資金を配分する機関にも、研究不正を取り扱う部署がある。 しかし、文科省の部署が「室」であるように、諸外国に比べてヒトカネとも不足している。数年ごとの人事異動で職員が変わるような状況だ。諸外国からみれば、日本の現状を誰に聞けばよいのかすら分からない状況だという。
誰も本腰を入れて関わりたくないという真空状態。それが行き着く先が研究不正の隠蔽だ。研究不正の事例を正直に公開すれば、STAP細胞事件で矢面にたたされた理研のように、徹底的に叩かれてしまうかもしれない。だったらなかったことにしてしまったほうが、研究機関にとっても研究者にとっても都合がよいとなる。
ネイチャー誌が糾弾~日本発最悪の研究不正が暴く日本の大学の「不備」
文部科学省は、独立した調査機関もなく、各研究機関に任せることは、「学問の自由」を尊重しているからだというが(あるシンポジウムでの担当者の発言より)、果たしてそれで十分だろうか。
日本の研究者、研究機関、そして行政に向けられている目は厳しい。せめて関係者は当事者意識を持つことから始めなければならない。
『研究不正と歪んだ科学—STAP細胞事件を超えて』
だから EU などは統一した研究公正システムを構築しようとしている。アメリカとの関係が強いカナダや中南米はアメリカの基準に合わせようとしている。
しかし、日本はこうした時代の流れに乗り切れていない。研究者の流動性が乏しいからなのか、ずさんな「研究公正システム」を見直そうとしない。そのため、日本から諸外国に渡った研究者が、日本の基準で研究をしたところ、研究不正として認定されたというケースが後を絶たない。残念ながら、今のままの「研究公正システム」でいたら、日本の研究や日本の研究者は世界から排除されてしまう。これがどれだけ日本の研究にダメージを与えるのか、研究者や政策関係者は理解しているのだろうか。
文科省の対応
研究活動における不正行為への対応等
文科省への意見
「研究活動の不正行為への対応のガイドラインについて 研究活動の不正行為に関する特別委員会報告書(案)」に対する意見募集の結果
平成18年7月8日~7月23日https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu12/siryo/attach/1334868.htm
- 「調査機関は、不正行為が行われなかったとの認定があった場合は、原則として調査結果を公表しない。」とありますが、不正行為が行われなかったと認定された場合も公表すべきだと思います。公表されなければ調査方法、手順などが本当に適切であったのか、さらにその認定が正しいのかどうか、第三者には判断できません。これでは、調査機関の一存で簡単に「クロ」を「シロ」と認定できてしまいます。私は以前、ある研究者による捏造・改竄を明確な客観的証拠を提示して学会や研究機関に訴えたことがありますが、研究機関は何の反証も提示しないまま「シロ」と判定し、その経緯は公表されませんでした。調査機関、すなわち問題の研究者が所属する研究機関は当然、所属の研究者による不正事件など起きてもらっては困るので、「クロ」を「シロ」と認定しようとすることは十分に予測できます。このような轍を踏まないためにも、不正行為の認定のあるなしに関わらず、調査結果を公表した方がよいと思います。また、「悪意に基づく告発」であっても、調査結果を公表し正確な情報を表に出すことで被告発者の名誉回復もなされやすくなると思います。
- 大阪大学医学部での今回の不正行為事件の調査に携わりましたが、研究機関だけで調査を進めることが非常に困難であると痛感しました。アメリカではNIHの下部機関としてOffice Research Integrity(ORI)が存在し、20名以上の博士号を持つ専属のスタッフが配置されていると理解しています。調査は研究機関が主体性を持って進めるとしても、ORIが積極的に研究機関にアドバイスしていると思います。日本の大学には様々な派閥、利害関係があります。残念ですがその利害関係が調査に影響を与えます。ORIのような政府機関が調査に関与すれば、より強い権限で調査を進めることができ、また公正な調査になると思います。
- 科学における不正(不正論文、研究費の不正使用、その他の研究にまつわる様々な不正や人事問題等を含む)の疑惑が出た場合には、大学や研究所の内部の調査委員会では、公正な調査や処分が行われることは非常に困難である。外部委員が居ても内部の意向を強く反映した、組織に取って都合良く選任された内部委員会に変わりなく、不正を行った同じ組織の仕事仲間に対して温情的な調査や処置が行われるのが常である。
「研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン」に関する意見募集の結果について
平成26年8月26日寄せられた御意見の概要https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/26/08/__icsFiles/afieldfile/2014/09/03/1351568_03_1.pdf
(不正行為の調査やその違反に対する措置に関して、各研究機関に任せるべきではない。被告発者の所属する研究機関が調査を実施することで、厳格な調査がなされていないのではないか。また、国が独立した調査機関を設けて対応してはどうか。)御意見に対する考え方
- 調査の公平性を担保するために、調査委員となる外部有識者の中に1~2名、不正調査が行われる場合に専任で担当する人を第三者機関から派遣し、一定の判断水準を維持することをしてはどうでしょうか。
- 研究者や研究機関から独立した第三者的な不正行為に対応する専門の機関を新たに設けるべきだと思います。
本ガイドラインでは、研究機関を挙げて研究活動における不正行為を防止することを基本的な考え方としており、一義的には不正行為の疑いがあるものに対しては当該研究機関が調査を行うことを求めています。その上で、本ガイドラインにおいて調査の手続きを示し、調査委員会には半数以上の外部有識者をいれることとし、調査の公正性を担保しております。